第5章 教育ネットワークは何を育てようとしているのか

─ YOTA、JOTA-JOTI、ボーイスカウト、そしてアイコム

ここまで私は、一つの仮説を提示してきた。

44Netでは、アマチュア無線由来の資源が、より広い通信技術基盤を支える資源へと再定義された。

そして現在、ARDCは教育、STEM、若者育成、デジタル通信を重点的に支援している。

もし、この流れが偶然ではないとすれば、その思想は実際にどこで形になっているのだろうか。

私は、その答えの一つが教育ネットワークにあるのではないかと考えている。


YOTAという世界的な取り組み

現在、IARUでは若い世代を対象とした YOTA(Youngsters On The Air) が重要な事業となっている。

YOTAは単なるキャンプではない。

国際交流。

無線技術。

リーダーシップ。

STEM教育。

デジタル技術。

こうした要素を組み合わせた若者育成プログラムとして発展してきた。

日本でもJARLはYOTAへの参加や派遣を進めている。

若い世代を育てることは、どの文化にとっても重要である。

この点に異論はない。


JOTA-JOTIというもう一つの流れ

一方、ボーイスカウトの世界では、

JOTA(Jamboree On The Air)

が1950年代から続いている。

その後、インターネット時代になると

JOTI(Jamboree On The Internet)

が始まり、

現在では両者を合わせた JOTA-JOTI が世界最大級の青少年交流イベントとなっている。

ここで興味深いのは、

「無線」と「インターネット」が対立する技術ではなく、

教育という一つの目的のために統合されている

ことである。

通信方式は手段であり、

教育が目的になっている。


アイコムならやま研究所

日本では、このJOTA-JOTIを象徴する場所がある。

アイコムならやま研究所である。

ここではボーイスカウト日本連盟と協力し、

アンテナ、

無線設備、

研究施設、

宿泊設備などが提供され、

青少年向けの通信体験が行われている。

企業が教育活動を支援すること自体は珍しいことではない。

しかし私は、この取り組みを見たとき、

一つの構図が見えてきた。

メーカー。

ボーイスカウト。

アマチュア無線。

国際イベント。

教育。

これらが一つの場で結び付いているのである。


世界中で同じ方向を向いている

ここまで見てきたものを整理すると、

ARDCは教育へ助成する。

ARRLは若者育成を進める。

IARUはYOTAを推進する。

ボーイスカウトはJOTA-JOTIを展開する。

メーカーは設備を提供する。

大学は研究を行う。

一つひとつは独立した活動である。

しかし、全体を俯瞰すると、

「アマチュア無線を教育・人材育成の場として活用する」

という方向で一致しているようにも見える。


ここで私は立ち止まる

私は、教育そのものを否定するつもりはない。

むしろ若い世代へ文化を伝えることは必要である。

しかし、ここで一つだけ問いを投げかけたい。

教育は、何を継承しようとしているのだろうか。

アマチュア無線文化そのものだろうか。

それとも、

通信技術を学ぶための入口としてのアマチュア無線なのだろうか。

この違いは小さく見えて、実は大きい。


私の仮説

ここからは私自身の仮説である。

ARDCの助成。

YOTA。

JOTA-JOTI。

ボーイスカウト。

アイコム。

大学。

STEM教育。

これらを別々の出来事として見ることもできる。

しかし私は、

「アマチュア無線を、未来の通信技術人材を育てるための教育基盤として位置付ける、一つの国際的な流れ」

として読むこともできるのではないかと考えている。

もちろん、そのような目的を各組織が共同で掲げているという証拠はない。

したがって、これは私自身の解釈である。

しかし、

公開資料を重ね合わせると、

それぞれが同じ方向を向いているように見えることもまた事実である。


「趣味」はどこへ行くのか

ここまで読んできた読者は、

私が教育に反対しているように感じるかもしれない。

そうではない。

私が気になっているのは、

「趣味そのもの」が語られなくなっていること

である。

CQを出す。

和文電信を楽しむ。

アンテナを自作する。

古い真空管を修理する。

何の役にも立たない実験を繰り返す。

そうした営みは、

アマチュア無線という文化の中心にあった。

しかし現在は、

「教育に役立つ」

「社会に役立つ」

という説明が増えている。

私は、その順番が逆になってはいないだろうかと思う。

文化があるから教育が生まれるのであって、

教育のために文化が存在するのではない。


次章へ

この教育ネットワークは、

世界的な技術政策とも無関係ではない。

AI。

半導体。

量子技術。

通信インフラ。

各国は「技術人材」を国家戦略として育成しようとしている。

その中で、

アマチュア無線はどのような役割を期待されるようになったのだろうか。

次章では、

STEM教育と技術覇権という、さらに大きな世界の流れの中で、この問題を考えてみたい。

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