─ 私が抱いた一つの仮説
ここまで私は、できる限り公開資料だけを用いてARDCを見てきた。
44Net。
ARDCの設立。
助成理念。
助成先。
助成額。
ここまでは事実である。
しかし、それらを調べているうちに、私は一つの疑問を持つようになった。
44Netで起きたことは、一度限りの出来事だったのだろうか。
それとも、
もっと大きな思想の始まりだったのだろうか。
44Netで起きたこと
44Netは、もともとアマチュア無線家がデジタル通信を実験するために割り当てられたIPv4アドレス空間だった。
当時、それは市場価値を持つ資産ではなかった。
しかし、インターネットの爆発的な発展によって、IPv4アドレスは世界的な希少資源となる。
その結果、44Netの一部は売却され、その資金によってARDCという巨大な助成財団が誕生した。
ここで重要なのは、
44Netは失われたのではない。
むしろ、
「アマチュア無線のための資源」が、「より広い通信技術全体を支える資源」へと役割を変えたのである。
これは公開された歴史的事実である。
助成先は何を示しているのか
ARDCの年次報告書や助成一覧を見ると、その支援はアマチュア無線だけにとどまらない。
教育。
STEM。
大学。
オープンソース。
GNU Radio。
デジタル通信。
地域コミュニティ。
Youth On The Air。
さらに、ARRL Foundationを通じたクラブ助成や、国際的なアマチュア無線活動との連携も確認できる。2024年には59件・約390万ドルの助成を承認している。(ARDC)
つまりARDCは、
アマチュア無線を支援する財団であると同時に、
アマチュア無線を含む通信技術全体を育てる財団
として活動していることが分かる。
ここからは仮説である
ここから先は、私自身の仮説である。
公開資料のどこにも、
「周波数を44Netと同じように扱う」
とは書かれていない。
したがって、そのようなことを事実として述べることはできない。
しかし私は、44Netの歴史と現在の助成方針を重ねて見たとき、一つの共通した発想があるように感じた。
それは、
アマチュア無線由来の資源を、より広い通信・教育・研究基盤の中へ位置づけ直す
という考え方である。
44Netでは、その対象はIPv4アドレスだった。
では、次に再定義される対象は何なのだろうか。
私は、その問いを避けることができない。
周波数も「資源」である
IPv4アドレスは有限資源である。
周波数もまた有限資源である。
もちろん両者は法制度も性質もまったく異なる。
しかし共通していることが一つある。
どちらも、
社会全体で利用方法を考える公共的な資源
という点である。
私は、ここに44Netとの類似性を感じた。
私が抱いた疑問
もし、
44Netでは
「アマチュア無線のための資源」が、
「通信技術全体のための資源」
へと役割を変えた。
そして現在、
ARDCの助成方針も、
アマチュア無線そのものより、
通信技術、
教育、
STEM、
研究開発、
若者育成へ広がっている。
そうだとすれば、
私は一つの疑問を持つ。
アマチュアバンドそのものも、将来、「趣味文化のための空間」ではなく、「通信技術人材を育てるための社会的資源」として位置づけ直される方向へ進んでいるのではないだろうか。
あくまで私自身の仮説である。
しかし、この仮説が頭に浮かんでから、私は世界中で起きている出来事が一つの流れとして見えるようになった。
ARDCはアマチュア無線の団体に「助成」の形で影響力を及ぼし。
結果として支配し。
「通信技術人材を育てるための社会的資源」として掌握したのち
アマチュア周波数の「使用権」を実質的に奪い取ることはないのだろうか?
各国固有のアマチュア無線の楽しみかたを潰してしまうことはないだろうか?
世界のアマチュア無線団体が「通信技術人材を育てるための社会的資源」として自ら「差し出した」かのように。
ARDCは44Netでのインターネット空間での成功体験を再現しようとしているのだろうか。
現代ではNGO 非営利団体が特定の国家の権益のためにさまざまな働きかけをしてそれを実現しようとしているのをそこここで見ることができる。
仮説を支えるもの
もちろん、この仮説だけでは不十分である。
だから私は、さらに資料を読み進めた。
ARDC。
ARRL。
IARU。
YOTA。
JOTA-JOTI。
ボーイスカウト。
アイコム。
日本の制度変更。
これらを一枚の地図に重ねると、
「教育」
「人材育成」
「社会貢献」
「STEM」
という言葉が何度も現れる。
私は、この繰り返しを偶然とは考えにくいと思う。
多くの組織が似た方向へ動いている
アマチュア無線の存在理由そのものが少しずつ変化させられているのではないか。
私は、その理由を読者と一緒に考えたいのである。
次章へ
もし私の仮説が正しいなら、
その変化は教育の現場で最もよく現れるはずである。
YOTA。
JOTA-JOTI。
ボーイスカウト。
アイコムならやま研究所。
これらは単独のイベントではない。
私は、それらが未来のアマチュア無線像を映し出す一つの窓になっているように感じている。
次章では、その教育ネットワークを見ていきたい。
